人たらしがビジネスでこっそり活用する心理学「ツァイガルニック効果」とは?

キャリアやステップアップについて考える上で、自分の仕事への取り組み方を振り返る機会は必要不可欠。

人たらしがビジネスでこっそり活用する心理学「ツァイガルニック効果」とは?

キャリアやステップアップについて考える上で、自分の仕事への取り組み方を振り返る機会は必要不可欠。

しかし、ふと自分が取り組んできた課題を思い返したときに、達成できたことよりも、達成できなかったことのほうが鮮明に覚えている、という人も多いのではないでしょうか。

実はこの現象を、心理学用語では「ツァイガルニック効果」と言い、その現象はビジネスシーンでも現れているのだそうです。

そこで今回は、このツァイガルニック効果とは何か、また、ビジネスへの有効な生かし方について、ビジネス心理コンサルティング株式会社の代表である林恭弘さんに伺います。

ツァイガルニック効果とは


まずツァイガルニック効果とは何かについて、林さんは次のように語ります。

「ツァイガルニック効果とは、『人間は達成できなかった物事や、中断・停滞している物事に対して、より強い記憶や印象を持つ』という心理学的な現象です。

人間は、完成・完結した物事に対してはスッキリとし、ほかの物事へスムーズに意識を移すことができます。しかし、未完成・不完全なものに対しては、なんともスッキリせず、心地の悪さを感じてしまうものです」(林さん:以下同じ)

そして、その「やり残し感」のようなものが記憶に残り、「完成させたい」「スッキリしたい」という欲求を湧き立たせることで、その欲求が興味や関心となり、深く印象付けられるのだそうです。

ツァイガルニック効果の具体例


ツァイガルニック効果という言葉自体はあまり聞きなじみのない人も多いかもしれません。しかしその現象は、日々私たちの身近なところに現れているのだそうです。

(1) 恋愛のかけ引き


「ツァイガルニック効果は恋愛においても現れます。例えば、自分の全てをさらけ出してしまうのではなく、『これは今話せることではないけれど』『時機を見てまた話すね』などと、ちょっとした秘密ごとがあって誰にでも話せることではないと示唆したり、長時間のデートで急接近するのではなく、『また今度ゆっくりと会おうね』と言って短い時間で切り上げ、相手にやり残し感を与えたりすることで、関心を高めさせることです。

恋愛においては、気持ちの入れ込み度合いが強いほうが相手に主導権を握られる、つまり『ほれさせたほうが主導権を握る』ということが、心理学の研究結果から報告されています。

よって、最初は相手のほうが自分に関心を抱きアプローチしてきたのに、いつのまにか逆転していて自分のほうが夢中になっている、ということがあれば、ツァイガルニック効果が働いた可能性が高いと考えてもいいでしょう」

(2) CM・テレビ番組・ドラマ・映画


「ツァイガルニック効果はCM・テレビ番組・ドラマ・映画でも使われています。CMの場合は、『続きはウェブで』と伝えたあとでクリックマークにカーソルを合わせて『カチッ』で終わるもの、テレビ番組では、『続きはCMのあとで』『このあと、衝撃の結果が訪れる!』といったフレーズが最も一般的です。

CMに入る前に、ゲストの仰天する顔だけを映してインパクトを与えておき、CM中にほかの番組にチャンネルを変えられないよう、情報を完結させないことで視聴者の関心を継続させるのです。

ドラマでは新展開に入る手前で時間切れとなり、『次回につづく』という古典的な手法をよく使いますが、一定の効果を挙げています。『えっ、ここで終わるの!?』という、中途半端感が次回の視聴につながるというわけです。そして、2、3話まで視聴すると、もう最後まで視聴しないと気が済まなくなるはずです。

さらに、映画などはダイジェストとして一部を見せることで、視聴者それぞれにストーリーや結末を想像させる手法が取られています」

(3) 世界遺産『サグラダファミリア』の建設


「例えば、アントニオ・ガウディ設計の世界遺産『サグラダファミリア』はスペインのバルセロナに建設中ですが、1882年から建築が開始され、いまだに完成していません。しかし未完成だからこそ、人々の記憶に強く残っているともいえます。

『サグラダファミリア』の魅力はその造形美だけではなく、見る者にとっては未完成であるものが完成に近づいていく様子を観察できること、そして建設に携わる者にとっては、徐々に完成に近づいていく過程に立ち会えることなのです」

ツァイガルニック効果をビジネスシーンに生かす方法


それでは、ビジネスシーンにおいては、どのようにツァイガルニック効果を有効活用できるのでしょうか。

(1) 休憩は中途半端な状態で取る


「今やっている仕事がここまでできたら休もう」とキリのいい段階まで頑張り、休憩を取るという人は多いですよね。

しかし、そのような休憩の取り方は、「『5分、10分休んだら仕事に戻ろうと思っていたのにネットサーフィンをしてしまい、気がつけば1時間以上も経っていた……』といったように、ダラダラと休憩することにつながってしまう」と林さん。本当に効果的な休憩の取り方というのは、実は「中途半端な、やりかけの状態で休む」ことなのだそうです。

「できれば、仕事の完成度が半ばを越えて3分の2ほど進行した状態で休憩を取るのが効果的です。なぜなら、『あともうひと頑張りで完結する』という状態がツァイガルニック効果によって関心や意欲を持続させ、短い時間で仕事に戻ることができるからです。『キリのいいところまでを完結した状態』の休憩は、あまりにもスッキリとした気持ちで休めるので、復帰までに時間がかかるのです」

(2) 「引きの営業」で成果を挙げる


営業は、商品知識を完璧に頭に叩き込み、セールストークも“立て板に水”のごとくに展開できなければならない、と思っている人は多いですよね。しかし、林さんによると、営業で好成績を挙げる人々は「引きの営業」を行っているといいます。

「実際に、トップセールスの人々に会ってみると、意外にもシャイな人が多いものです。このような人たちの特徴は『押しの営業』ではなく、『引きの営業』をしていることです。

私の知人でトップセールスの男性は、まずお客さまに、『お会いして、互いに良い関係になれそうでなければお勧めしないことにしています』と言い切り、実際にもそうしているようです。

そして初回から商品(サービス)の説明を事細かにして『売りつける』のではなく、商品の信頼性とユーザーの声だけをしっかりと伝え、『関心を持っていただけたか』『長いお付き合いをしていただけそうか』ということをお聞きしてから説明に入るのです。

少々の手間暇はかかりますが、あえて一度に全てを伝え切ろうとしないことが、かえってお客さまの高い関心を引きつけ、説明に聞き入らせることができるのです」

(3) うまいプレゼンより不完全だが熱意あるプレゼンを


多くの人はプレゼンテーションについて、「上手なほうがよい」「上手でなくてはならない」と考えがち。しかし林さんは、「確かに上手なほうが格好良いことは言うまでもありませんが、成功率となれば話は別」だと言います。

「プレゼンテーションでの最重要ポイントは、格好良いことではなく、『印象に残る』ことです。流ちょうで格好良いプレゼンテーションは、聞く者にとっては、それこそ内容が流れてしまい印象に残りにくいのです。それと比較すれば、言葉がつっかえる、声が上ずる、冷や汗をかいている、というプレゼンテーションは、格好悪いのですが印象には残るのです。

もちろん内容がよくなければ印象の問題どころではないのですが、『上手すぎるプレゼン』よりも『不完全だけれども、熱意のこもったプレゼン』が多くの人の心をつかみ、理解者・協力者に変える力が強いということです。

プレゼンテーションとは『やり方』を磨いても人の心をつかむことはできません。熱意のように、理解者・協力者を生み出すあなたの『在り方』を磨くことなのです」

不完全さが人を惹きつける


人間にとって未完成・不完全なものほど記憶と印象に残り、完成・完全に近づけたいという欲求と行動を引き起こすツァイガルニック効果。人の心を惹きつけ、理解者・協力者を生み出すきっかけづくりに役立てられるため、林さんは「私たちは完璧を目指す必要などはなく、互いに未完成・不完全さを補い合えばいいのではないでしょうか」と言います。


もし皆さんが自分の欠点を感じたときは、ぜひこのツァイガルニック効果を生かすことを考えてみてはいかがでしょうか。

識者プロフィール


林恭弘(はやし・やすひろ)
企業の人事・教育コンサルタント会社を経て、2010年ビジネス心理コンサルティング株式会社を設立。エグゼクティブを対象とした講演活動から幼児教育事業まで幅広く教育分野に携わる。経営者、管理職、一般職、労働組合、教育、医療、行政などを対象とした講演会・研修会で全国を飛び回り、4,000回以上の講演会・研修会を担当し、多方面において幅広く活動を展開する。


※この記事は2016/04/20にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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