宇宙分野の研究が地球の課題解決につながる? JAXA研究員の仕事に迫る

世界で初めて小惑星から表面物質を持ち帰ることに成功した「はやぶさ」や金星の大気の謎を解明する「あかつき」など、宇宙航空研究開発機構(JAXA) による宇宙研究が注目を集めています。

スタディ 雑学
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世界で初めて小惑星から表面物質を持ち帰ることに成功した「はやぶさ」や金星の大気の謎を解明する「あかつき」など、宇宙航空研究開発機構(JAXA) による宇宙研究が注目を集めています。

その中の一つが、宇宙空間から地球を観測する技術の研究。宇宙空間から地球上の植物の有無や、海面の温度などを計測する計測器、通称「センサ」の研究に携わるのが、若手研究員である室岡純平さんです。

今回は、あまり知られることのないJAXAの研究員の仕事がどんなものなのか、室岡さんに聞きました。


温暖化問題解決の鍵を握る技術を研究


─室岡さんのJAXAでの仕事を教えてください。

室岡純平(以下、室岡):人工衛星の目ともいえる、センサの研究開発をしています。センサとは測定器のことで、太陽光の反射光や高温の物体から直接放射されている赤外線等、さまざまな電磁波を計測して、地球のさまざまな情報を測定する装置です。センサにはさまざまな種類があるのですが、私は「植生ライダー」というセンサを研究しています。



─ライダーでは何を測定することができるのでしょうか?

室岡:森林の木の高さを測定することができます。一般的な受動光学センサの場合、森林の面積を計測することができるのですが、その木の高さが高いのか低いのか、ということは光学センサだけでは把握しづらいんですね。つまり、ライダーを扱うことによって今まで不足していた“高さの情報”を補完することができるんです。

─木の高さを計測することがなぜ重要なのでしょうか?

室岡:やはり、そう思いますよね(笑)。でも、木の高さを知ることは環境問題解決に直結していることなんですよ。

今、地球温暖化が重要課題として叫ばれていますが、地球温暖化の原因は二酸化炭素なので、地球温暖化が今後どのように進んでいくかを予想するためには、二酸化炭素がどのくらい大気中にあるのかを調べる必要があります。

また、地球温暖化の予想には木が二酸化炭素を吸って光合成をするという一連のサイクルも含めて、二酸化炭素が地球全体をどのように流れているかを知ることが重要なのですが、二酸化炭素の流れを知るうえで現在不足している情報が、「木々の炭素蓄積量」なんです。

この問題が、木々の高さを測定できるライダーを使用することによって、光学センサを用いて計測した森林の面積の情報と合わせて計算し、炭素蓄積量の正確な値を知ることができるんです。

─現在、ライダーは世界中でどのくらい活躍しているのでしょうか?

室岡:ライダーの技術自体は珍しいものではないのですが、地球を観測するためのライダーを開発するのは非常に難しく、現在、ライダーを搭載している地球観測衛星はNASAが開発した2機しかないのが現状です。

しかもその2機のうち順調に稼働しているのは1機だけなんです。ライダーの研究開発は世界中で行われているのですが、まだ技術的に困難なことも多くあるので、JAXAでもライダーを搭載した地球観測衛星を打ち上げるのは技術的に非常に難易度の高い課題となっています。



働き方は一般的な会社員とあまり変わらない


─JAXAでライダーを研究するに至った流れをお聞きしたいのですが、室岡さんの子ども時代はどんな少年だったのですか?

室岡:やはり宇宙が大好きな少年でした。宇宙を好きになったきっかけは「ハッブル宇宙望遠鏡」という衛星の宇宙写真です。ハッブルで撮られた写真を見て「なんて宇宙は広いんだ」って衝撃が走ったんです。それからですね、宇宙への関心がやまなくなったのは。

─宇宙が好きな少年がなぜ、センサの開発に携わるようになったのでしょうか?

室岡:宇宙が好きだったので、大学と大学院は天文学を専攻したんです。その大学院で私は人工衛星を開発する研究室に所属したのですが、そこでセンサを担当させていただくことになって。そういった経験でセンサへの関心と知識が増し、JAXAのセンサ研究開発をする部署に入社しました。

─JAXAの研究員は毎日どのような働き方をしているのかとても気になります。室岡さんの1日の働き方を教えてください。

室岡:多くの会社員の方とあまり変わりませんよ(笑)。1日のスケジュールは日によって違うのですが、朝出社したらメールチェックして、10時ごろから打ち合わせがあって、午後から実験。15時くらいから退社までデータ解析といった感じですね。就業時間は日によって変わりますけど、基本的には9時30分~17時45分です。

─JAXAで仕事をしていて、喜びを感じる瞬間はどんなときですか?

室岡:やっぱり自分が携わったセンサが宇宙に打ち上げられて、成果を挙げることが一番の喜びになるだろうと思いますし、その思いが仕事へのモチベーションとなっています。私はまだその経験がありませんが、早くその喜びを味わいたいと思い日々精進しています。

─それでは逆に大変だと感じることはなんですか?

室岡:自分の仕事を外部の人に説明して、納得してもらうというのがとても難しいですし、大変だと感じます。宇宙開発と一口に言っても、分野ごとに細分化されていますので、研究の成果を評価する側も、専門的な説明を理解するのはとても難しいことだと思うんです。

専門ではない人に対して、自分の研究が将来どのように役に立っていくのかというのを納得してもらうのは非常に大変です。しかし、専門的なことを伝えるスキルは研究をしていくうえで非常に大切な能力だとも考えていますので、日々格闘しています。この取材もまさに僕にとって大いなるチャレンジです(笑)。


夢はライダーを宇宙に飛ばすこと


─仕事をしているなかで、挫折することはありますか?

室岡:それはもう毎日が挫折の連続ですよ。ついつい周りと比べて自分の能力を悲観してしまうことばかりです。なのでそんなときは、有給休暇を取ったりして気持ちをリフレッシュしてから、仕事に向かうようにしています。

─では最後に、室岡さんの現在の夢を教えてください。

室岡:直近の夢は、やはり今研究しているライダーを宇宙に飛ばすことです。現在、数年先の打ち上げを目標に研究に励んでいます。ただ、もしライダーを宇宙に飛ばすことに成功したとしても、夢が終わるのではなく、より高性能なライダーを研究していきたいと思っています。

先ほど、森林伐採による環境破壊を把握するうえで木の高さが重要だと言いましたが、それは地球が抱える問題のひとつにすぎません。さまざまな課題をライダーで解決していきたいと考えています。また、そのためにもライダーの価値を提示できるように、努力していきたいと思っています。



識者プロフィール
室岡純平(むろおか・じゅんぺい)JAXA研究開発部門センサ研究グループ研究員。1986年生まれ。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 修士課程修了後、2011年JAXA入社。以来、人工衛星のセンサ「ライダー」や赤外検出器の研究開発に従事している。

※この記事は2016/03/24にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
《編集部》

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