【本が売れない時代に売る!】本のセレクトショップ「百年」店長・樽本さんが実践する接客術とは…?

PROFILE:株式会社百年計画 代表取締役 樽本 樹廣 1978年生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業。大学卒業後、東京都内の新刊書店に5年間務める。2006年8月、27歳で本のセレクトショップ「百年」を吉祥寺でオープン。

【本が売れない時代に売る!】本のセレクトショップ「百年」店長・樽本さんが実践する接客術とは…?

PROFILE:株式会社百年計画 代表取締役 樽本 樹廣
1978年生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業。大学卒業後、東京都内の新刊書店に5年間務める。2006年8月、27歳で本のセレクトショップ「百年」を吉祥寺でオープン。


スマホ全盛の今も、「やっぱり紙の本が好き」という人は少なからずいます。いや、ここ最近ではむしろ増えているようにさえ感じられるかも。そうしたムーブメントを支えてきたのは、独自のセレクトを行うインディペンデントな本屋の存在。そんな本屋のひとつが、吉祥寺にある百年という本屋です。

百年の扱う本の9割は古本、1割が新刊。リトルプレスやZINE(自費出版の同人誌)なども充実していて、他の本屋では見られないような品揃えに思わず心が湧き立ちます。



店内では写真やアートの展示やトークイベントなども行われ、単に本を売り買いするだけの場には留まりません。

店主の樽本さんが百年をオープンしたのは2006年。当時27歳だったといいます。「出版不況」も叫ばれる中、20代の樽本さんが本屋を始めた理由とは。どんな苦労があったのか。この10年を振り返ってもらいました。

※人通りの多い通りにありながら、静かな佇まいの入り口。



まだ今の年齢なら、失敗しても人生やり直せる



―百年を始めたきっかけについて教えてください

樽本:もともと本が好きで、新刊を扱う書店で働いていたんです。ですが、毎日沢山の本が配本されてきて、売れない本は返本されていく。単なる「商品」として本を扱うことに疑問を持つようになりました。もっとゆっくり、本と向き合いたいと思っていたんです。

それで、古本を中心に扱う本屋、百年を始めたのは10年前、僕が27歳の頃でした。30代が目の前に見えてきた時期ですね。「今なら、仮に失敗しても人生をやり直せる」と思って、自分で本屋をつくることにしたんです。

―どんな本屋を目指したのですか

樽本:コミュニケーションする本屋でありたいなと思っていました。百年が展示やイベントをやっているのはこういう理由からですね。あとは、専門店ではなく、誰にでも開かれている街の本屋でありたかった。自分が興味を持っていたこともあって、最初はアートや人文系の本が多かったのですが、今ではいろいろなジャンルの本が均等にありますよ。

※扱うジャンルは幅広いとはいえ、やはりアート系の本の品揃えは今も充実している。



貯金がなくなり、閉店直前まで追い込まれた時期も


―10年前といえば、「本が売れない」と叫ばれていた時期です。紙の本の売上が大きく落ち込み、沢山の書店が閉店しました。そんな時期に本屋をつくるという不安はなかったのでしょうか?

樽本:たしかにそうなのですが、あまり気にしていませんでしたね。本を読む人は読むだろうと。本を信じていたんです。ちゃんとやれば、結果もちゃんとついてくると考えていました。

―実際に開店してからはどうでしたか?

樽本:それが、最初の1年、2年は全然売れなくて。貯金も底をついてしまって…。同じ本とはいえ、新刊と古本は全然違うんですよ。まずお客さんから本をお売りいただかないといけませんし。街の本屋として認識されるまで時間がかかったなあと思います。

―どうやって持ち直したのですか?

樽本:お客さんから教わったことが大きいなと思います。最初は古本の知識がほとんどありませんでしたから、お客さんとのやりとりを通じて学ばせてもらったなと。古本屋は、自分の本が他の人のもとに届けられる場所ですから、チェーン店であったり、売った本がどこに行くのか見えないような店には持っていきたくない。だから、顔が見える商売をすることが大切なんです。そのために、売ってくれるお客さんとコミュニケーションを図るんですね。

持ってきてくれた本の内容はもちろん。お客さんが、その本を読んだエピソードだったりを、聞かせてもらったりします。そのうえで、うちだったら出せる最も高い査定額で買い取るようにしています。それもまた誠実なコミュニケーションの1つの形だと思うからです。

コミュニケーションの大事さに改めて気が付いたのは、本当にいよいよ店の経営が危ないぞというとき。ある学校で校長先生をやっていた方の蔵書を1万冊もお売りいただけることになって。そのきっかけを作ったのがコミュニケーションだったんですよね。それで本の品揃えが一気に充実して、そこから店が徐々に軌道に乗り始めましたね。

―お客さんとの信頼関係が大切なのですね

樽本:ちゃんとコミュニケーションを取らないと信用されないんだなということが分かってきたんです。正直、値段だけでいえば、うちより高く買取る店もあるとは思うんです。それでもうちを選んでもらえる理由をつくらないと。

※「接客のよくない店に、いい本は集まらない」と接客の大切さを語る樽本氏。



限界を知って、自分を知ることが成長につながる


―百年を始めてから何か意識の変化はありましたか

樽本:他と競争しない、ということですね。それこそ、百年を始めた頃は若かったし、「どこにも負けたくない」と思っていました。でも5~6年やってきたあたりから、他とは違う価値観でやっていこうと考えるようになって。他と勝負しても面白くないぞと。それが、コミュニケーションをお客さんとしっかり取るってことだったんですけんどね。

―樽本さんが百年を始めた頃は20代。そうした変化は、30代になってからですね

樽本:そうですね、いわば丸くなったわけです。僕は丸くなるのはいいことだと思っています。なぜなら、いろいろなことを吸収できるようになるから。

本のセレクトショップとはいえ、実は「セレクトしない」ということも大事なんです。最初は自分の興味で本を選んでしまいがちですが、そうなると自分の興味の範囲内だけのセレクトになってしまいますよね。

―ある種の達観ですね。どうすれば、そうした意識を持てるようになるのでしょうか

樽本:自分を知ることじゃないのかな。自分の限界を知るということ。「限界を超えるんだ」というマッチョな人もいるだろうけど、別に超えなくたっていい。できないことを知って、限界の先にあることを、ゆっくりでいいから学ぼうとすること。そうすれば、自分のことも好きになれると思います。

―樽本さん自身が、限界を知った経験というのは何ですか?

樽本:僕は日大の文芸学科を出ているのですが、在学中はまさにモラトリアムで、自分でも小説を書いたりして。でも、なかなか認められない。どこかで踏ん切りをつけないといけないと思ったんです。それで30歳が見えてきた頃に、もう駄目だな、今のままだと自分は終わってしまうなと。

それに、当時付き合っていた彼女、今の奥さんですが、このままでは彼女との関係も上手くいかないだろう。身近な人とちゃんとコミュニケーションを取れないと、他のこともできるはずがない。身近な人に好かれるためにはどうしたらいいんだろう、とも考えていました。

―新しい一歩を踏み出したいと考えている人に伝えたいことはありますか

樽本:自分のことを好きになって、いい仕事をして欲しいですね。いい仕事というのは、嘘をつかないこと。関わる人たちに対して、誠実に働くこと。そうすれば、人としても必ず成長できますから。

キャリアコンパス読者にお勧めしたい本

 


※キャリアコンパス読者におすすめの本をセレクトしてもらいました。「世界が決壊するまえに言葉を紡ぐ」。秋葉原殺傷事件と3・11以降をとらえた本でありながら、自己と他者について考える契機になるとのこと。

どんな質問に対しても言い淀むことなく、自分の言葉で答えてくれた樽本さん。その様子からは、常に自分の頭で考え続けてきた人なのだろうという、誠実さを感じ取れました。大切なのは、自分自身を知って、嘘をつかないこと。そうすれば、新しい自分の姿が見えてくるのかもしれません。

(取材・構成:玉田光史郎)

※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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