社員の「働きたい」を活性する―LIFULL(ライフル)が「日本一働きたい会社」になれた理由

まず、最初にご紹介するのは、ある男性がまだ新入社員だったころのお話です。

社員の「働きたい」を活性する―LIFULL(ライフル)が「日本一働きたい会社」になれた理由

まず、最初にご紹介するのは、ある男性がまだ新入社員だったころのお話です。

彼はマンションデベロッパーで営業として勤めていた時、ある若い夫婦の担当になりました。

その夫婦は彼が紹介した物件をとても気に入り早速購入手続きをしたものの、ローンの審査が通らず落胆します。そんな様子を見て気の毒に思った彼は、何と、自社の物件はもとより、他社からも夫婦の条件に合う物件をかき集めて紹介し続けました。最終的に夫婦は他社の物件を気に入って購入。

彼は上司に大目玉を食らいましたが、彼は達成感と充実した気持ちでいっぱいでした。なぜなら後日、その夫婦が彼を訪ね、満開の笑顔でお礼を言ってくれたからです。誰かが幸せになるために仕事をしよう、彼はそれを心に決めます。

実はこの新入社員こそ、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」(旧:HOME'S)を運営する株式会社LIFULL(ライフル)の代表、井上高志社長。同社は12年間にわたり「日本一働きたい会社」を目指してさまざまな制度、仕組みをつくりあげてきた結果、2017年3月に発表された「社員モチベーションが高い企業」で283社中1位となりました。

(2017年4月に株式会社ネクストからLIFULLへ社名変更。結果当時の社名はネクスト)

社員数も12年で80名から1,000名に、売上高は10倍へと確実に成長を遂げています。そこで、井上社長と共に同社の急成長の立役者として活躍した人事本部長・羽田幸広さんに、成長を支えた具体的な取り組みについてお話を伺いました。

「日本一働きたい会社」は、社員が自分たちでつくる会社


そもそもLIFULLの提唱する「日本一働きたい会社」とは、具体的にどんな会社像のことでしょうか。

「よく『働きやすい会社』と混同されがちなのですが、単純に福利厚生が充実しているといったことではなく、社員にとって『働きやすく、なおかつ働きがいのある会社』のことです。

人は、自分のやりたいことに取り組んでいる時にこそ熱中して成果をあげますし、自発的な姿勢で多くを学びながら成長していきます。

ですから弊社では、『これがやりたい』という社員の内発的動機を重んじており、思いを持った社員が自らチャレンジできる環境や風土を整えることを何よりも大切にしています。

また、社外のビジネスパーソンからも働いてみたいと思われる会社でありたいと考えています」

そんな「日本一働きたい会社」を目指すことになったきっかけは、井上社長の思いに共感した羽田さんが、同社への転職を決意し、面接を受けたことからでした。

「私が受けた最終面接で、代表の井上が『社員にとって日本一の会社をつくりたい』と語ったことがきっかけです。その思いを実現することを約束して、2005年に人事担当者として入社。そして2008年から有志の社員と共に『日本一働きたい会社プロジェクト』を推進してきました。

このプロジェクトは役員と人事だけではなく、80名の社員が一緒になって自社を日本一働きたい会社にするために人事施策のアイデアを出し合い、進めてきたもの。

例えば、同プロジェクトから、社内大学である『LIFULL大学(当時はネクスト大学)』が生まれました。LIFULL大学では社長が塾長を務める『経営塾』や、『ゼロからプログラミングを学べるゼミ』など、社員が講師になって知識や経験を教え合い学びあうゼミナールという講座が年間約50講座ほど開講されており、すべての社員が自由に受講できます」

LIFULL大学でのゼミ風景



社員の道しるべ「ビジョンカード」


社員と共に「日本一働きたい会社」をつくりあげてきたLIFULL。

ただ、内発的動機といっても、自由すぎて何も方向づけるものがなければ、社員たちは何をすれば良いか分からなくなってしまうこともあるかもしれません。

会社組織全体を変革するためには「何を目指すのか」「なぜ目指すのか」「どのように目指すのか」を明確に定める必要があります。そこで、社の方針をブラすことなく方向づけるために「社是」「経営理念」「ガイドライン」を明文化したものが、社員全員が携帯している名刺サイズの「ビジョンカード」です。

「ビジョンカードは、当社の社是や経営理念、行動指針であるガイドラインが記載されたカードです。社是と経営理念は設立以来変更していませんが、ガイドラインは会社の成長に合わせて数年に一度見直しています。

社員は常にビジョンカードを携帯し、ビジョンカードに沿った言動を心がけています。判断に迷うことがあれば見直し、あらためて自分が進むべき方向性を再確認できる。

当社にはさまざまなバックグラウンドを持つ人材、多様な才能を持った人材が集まっていますが、ビジョンカードに沿って仕事を進めることで、何を目指すのか、どのような方法で目指すのか、考え方や行動の指針が明確になるため、多様性を束ねることができると考えています。

また、社員だけでなく、お客様や採用選考に訪れる学生などにもこのカードを配布しています。当社の価値観をオープンにし、共感していただくことで、信頼関係の構築に一役買っていますね。

現在8つあるガイドラインのうち、例えば『一点の曇りもなく行動する』は、いわゆるグレーゾーンと言われるような曖昧さを許さず、白黒はっきりして、絶対に正しいと胸を張れるような判断をする、という弊社らしいカルチャーを表していると思います」

この、「一点の曇りもなく行動する」というガイドラインが特に好きだという社員の一人からは、こんな声があがったそうです。

「前職ではお客様のご意向やお気持ちを最優先するのではなく、営業は商品の売り上げだけが重視され、それだけが評価につながっていました。

LIFULLでは、自社の短期的な売り上げではなく、第一にお客様のことを一生懸命考えて、お客様により良い価値を提供するために仕事をすることができます。お客様と心から向き合え、固い信頼関係が築けること。これはやりがいにもつながっていますね。本当にこの会社に入って良かった」

以下がLIFULLのビジョンカード。一つひとつのビジョンに、ぜひ目を通してみてください。

迷いや曇りをなくす大事なガイドライン


<ビジョンカード>(参考資料)

【社是】

利他主義

(自分を中心とした全方位の人たちに対して何らかのアクションを起こすことで、相手を笑顔に、HAPPYにしよう)

【経営理念】

常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る

【ガイドライン】

(1)真理を探求し続ける

(2)革進の核になる

(3)最速で価値を提供する

(4)高い目標を掲げる

(5)計画を立て完遂する

(6)一点の曇りもなく行動する

(6)真のチームワークを築く

(8)すべてのステークホルダーを重んじる



変わり始めた会社と社員


「日本一働きたい会社」を目指し、12年間、さまざまな制度や仕組みを進める中で、会社や社員は大きく変化していきました。

「経営理念の浸透に力を入れつつ、挑戦するための制度や企業文化を醸成してきましたので、経営理念を実現するために、意欲的に挑戦をする社員が増えました。

分かりやすいところで言いますと、社員や学生が誰でも新規事業を提案できる『Switch』という制度。年間100~150件くらいの応募があり、LIFULLのグループ会社15社のうち5社はこの『Switch』から生まれたものだったりします。

新たなイノベーションとアウトプットを生む「Switch」



そのほか、四半期ごとにクリエイティブな業務に携わる社員が、まとまった7営業日を業務以外の新しい仕事に取り組むことができる制度『クリエイターの日』は、多くの社員が参加する人気の制度。通常業務では得られないような刺激を受けることで、仕事にイノベーションを起こすことを目的につくられた施策です。

これらの取り組みから『LIFULL HOME'S』のiPhoneアプリや社内ライブラリの貸出システムなど多数のアウトプットが生まれ、クリエイターの成長だけでなく、会社の創出力向上にも寄与しています。

また弊社では全社横断プロジェクトへの参加を推奨しており、述べ30%近い社員がなんらかの全社横断プロジェクトに自主的に参加して会社の活性化につながっています」

社内には多くの活性剤が用意されているので、刺激を受けた社員が積極的に「会社づくりに参加」しています。この好循環がモチベーションを高めているのでしょう。

もちろん、中にはうまくいかないこともありました。採用に関しては、こんな失敗もあったそうです。

「会社がまだ小さいころは、『スキル』を重視して採用することも多くあったんです。分かりやすくハイキャリアな方が応募してくれると『すごい人がきた』と積極的に採用していました。

しかし実際一緒に働いてみると、どんなにスキルが高くてもLIFULLが大切にしている社是や経営理念、会社の方向性と全くフィットせず、結果として成果が出しづらくなってしまったケースも。

こういった経験から、現在の採用においては『ビジョン、カルチャー』にフィットしているかを最重要視し、それが合わなければどんなにスキルが高い優秀な方でも採用しないことにしています」

f:id:okazaki0810:20190914110918j:plain

社内行事での一コマ



組織は人を幸せにするためにある


最後に、羽田さんが今後目指していきたい会社像について教えていただきました。

「当社が掲げる『あらゆるLIFEをFULLに。』を実現するためには、世の中にあるさまざまな社会課題を解決すべく無数の事業を立ち上げる必要があります。

そのために、スタートアップが次々に生まれる仕組みを構築し、数百の企業で構成される企業グループをつくっていきたいと考えています。

この会社に居続ける人、卒業する人、出戻る人、プロジェクト的に関わる人、今後も本当にさまざまな人と仕事をしていくと思いますが、LIFULLに関わるすべての人が幸せになるような組織をつくっていきたいですね。

会社は社会に新たな価値を提供するために存在しますが、そのために社員が不幸になることがあれば、それに価値があるとは私には思えません。組織は、人を幸せにするためにあります。そうでなければ、みんなで集まって協力する意味がありません」

「日本一働きたい会社をつくりあげることができたら、そのノウハウを本にして全部公開しよう」井上社長が放った5年前の言葉が実現し、2017年4月、一冊の本として多くの書店で並びました。「同書をきっかけに一つでも多くの会社が良い方向へ変わり始めれば、そこで働く人たちが幸せになるから」という思いが込められたこの本は、まさにLIFULLの社是「利他主義」を体現しているといえるでしょう。

あなたは今、自ら率先して会社や仕事に参加していますか? あなた自身が本当に働きたい会社とは、どんな会社ですか? 自分のやりがいやモチベーション、目指すべきキャリアがどこにあるのか、今在籍している会社を軸に、一度考えてみませんか。


(取材・文:ケンジパーマ)

識者プロフィール


羽田幸広(はだ・ゆきひろ)

株式会社LIFULL執行役員人事本部長。1976年生まれ。上智大学卒業。
人材関連企業を経て2005年6月ネクスト(現LIFULL)入社。人事責任者として人事部を立ち上げ、企業文化、採用、人材育成、人事制度の基礎づくりに尽力。2008年からは社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導いた。

※この記事は2017/09/26にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

page top