アフリカが「写真家」の仕事をくれた。裸の写真家・ヨシダナギインタビュー(後編)

ヨシダさんが幼い頃から憧れ続けたマサイ族(Photo:nagi yoshida)

アフリカが「写真家」の仕事をくれた。裸の写真家・ヨシダナギインタビュー(後編)

ヨシダさんが幼い頃から憧れ続けたマサイ族(Photo:nagi yoshida)



アフリカの少数部族と同じ衣装を身にまとい、戦隊ヒーローのような構図で部族を撮影する「裸の写真家」ヨシダナギさん。前回は、彼女がアフリカに憧れたきっかけから、現在の撮影スタイルを確立するまでを伺いました。

後編では、アフリカに行って変わったことや、ヨシダさんが見たアフリカと日本の働き方の違いなどについてインタビュー。最後には、20代の若者へのメッセージもいただきました。

憧れ続けたマサイ族から「尊敬してるよ!」


―小さいころに見たマサイ族に憧れ、アフリカで少数部族の写真を撮るようになったそうですが、マサイ族に初めて会ったのは2014年のことだったそうですね。

ヨシダナギさん(以下、ヨシダ):そうですね。2009年に初めてアフリカに行ったので、けっこう時間が経ってから会いに行きました。

私はお酒が飲めないので、普段ならガイドに誘われても街のバーに出かけることはないんです。でも、その日はなんとなく行ってみたら、そこには「シティマサイ」と呼ばれる、Bボーイのような格好をしたマサイ族がいて。

―そんなマサイ族がいるのですね!

ヨシダ:タンザニアとケニアの都市部はインフラが整っていて、一見東京と変わらないくらい。普通にスマートフォンやiPadをいじってます。彼らはフレンドリーなので、外国人の女の子がいたらとにかく声をかけてくるんですよ。そうして話をする中で、日本から来たことを伝えると「君と同い年くらいの日本人で、すげークレイジーな女の子がいるんだぜ」と言われました。そんな子がいるんだ!と思って詳しく話を聞いてみたら、「フェイスブックで見つけたんだけど、服を脱いで、俺らみたいな部族と同じ格好をしている女の子なんだ!」と。私のことでした(笑)。彼らにそう伝えたら、「君は俺たちをリスペクトしてくれているから、俺たちも君をすごく尊敬してる」と言ってくれたんです。小さいころに憧れたマサイ族に、長い時間を経てそう言ってもらえたことがすごくうれしかったですね。

2014年はちょうど私が「裸で撮影をする」っていう記事が拡散されていた時期で、あまりにもこのことばかりが取り沙汰されて、気にしていたこともあったんですよ。売名だとか言われて、そんなつもりじゃないのにって。でも、シティマサイの彼らは何も情報がないにもかかわらず、私が彼らをリスペクトする気持ちをくみ取ってくれた。アフリカ人に伝わったなら、これでいいんだって、すごく勇気をもらいましたね。

今でもたまに日本人がタンザニアに行くと、シティマサイとの会話の中で私の名前が挙がるらしいです。奇跡みたいな話だと思いますね。あと、フェイスブックってすごいなと思いました(笑)。

不便さもアフリカの魅力。受け入れたら人生が豊かになった


―都市部でのお話を伺いましたが、ヨシダさんが撮影される部族が住んでいるのは地方が多く、日本ではなかなかないトラブルも多いと思いますが、抵抗はありませんでしたか?

ヨシダ:最初は人並みに不便さを感じていましたよ。でも、ある日ホテルに泊まっている時に、面倒くさくてシャワーを浴びないで眠ったら、翌日から4日近く断水になったんです。当然シャワーは浴びることができないし、トイレの水も流せない。耐えきれず不満を言ったら、ガイドに「何をしにアフリカに来たの?」と言われて、目が覚めました。便利な生活がしたいなら、ずっと日本にいればいい。でも、アフリカにはアフリカの面白さがあって、それに気づけたらもっと人生が豊かになる。それ以来、水が出るとなれば大きなバケツにいっぱい水をためておくようになったし、できることはできるうちにやっておこうという性格になりました。

アフリカに行く前後で変わったことは他にもあって、ちょっとしたことでイライラしなくなりました。何かを待つのも苦にならなくなったし、ダメなものはすっぱり諦められるようになりましたね。あと、これはアフリカにいるとき限定なのですが、感情表現が豊かになります。「ありがとう」や「好きだよ」を素直に言えるし、アフリカ人は黙っているとお金をごまかしたり仕事をちゃんとしなかったりする人が多いので、よく怒鳴ります。もともと明るい性格ではないこともあって、日本にいると元の性格に戻っちゃうんですけどね。

アフリカ人は「サボりすぎ」、日本人は「真面目すぎ」?


―アフリカの働き方と日本の働き方を比較してみて、思うことはありますか?

ヨシダ:アフリカと日本って、仕事の概念がちょっと違うんですよね。日本人は仕事の時間はサボらないし、プライベートなことは持ち込まないけど、アフリカ人は仕事中にガールフレンドと電話するし、クライアントを口説いてくるし(笑)。プライベートとの境目があまりなくて、「楽しそうな仕事の仕方してるな~」と思います。

日本人は真面目ですよね。ただ、根詰めて働きすぎて効率悪くなってないかな? とは思います。休みなく働いていて、寝ていないことが格好良いように思っている人が時々いますが、エチオピア人にそのことを話したら爆笑していましたよ。「サボってなんぼだろ!」みたいな。まあ、彼らは彼らでサボりすぎて効率が悪いんですけどね(笑)。

―ヨシダさんご自身はどういった生活スタイルで働いているのでしょう? アフリカにいることが多いのでしょうか。

ヨシダ:年に合計3~4カ月ほどをアフリカで過ごして、日本にいる時は講演会や写真展の準備や執筆作業、写真のレタッチなどをしています。

アフリカに行くのは最近だと1回あたり1週間程度の短期滞在が多いのですが、少数部族が住んでいる場所まで行くとなると、移動に4日かかることもあります。限られた日数で決まった枚数の作品を撮らないといけないので、いつもプレッシャーがすごくて……。やめていいと言われたら、すぐにやめてしまうかもしれません。自分の性格を考えると、趣味のままのほうが良かったんじゃないかなと。アフリカ人の格好良さを伝えることができるなら、という気持ちでなんとか頑張っていますね。被写体がアフリカ人以外だったら続いていないと思います。

アフリカが「写真家」の肩書きをくれた


―今後はどういった活動をしていきたいと考えていますか?

ヨシダ:私は「写真家」という肩書きをアフリカからもらったと思っていて。彼らがいなければこの仕事をすることもなかったし、アフリカにはいろんな縁と恩を感じているので、なんらかの形で恩返しができたらいいなと考えています。個人での小さな恩返しというよりは、アフリカのさまざまな問題に動いてくれる人が増えて、彼らの暮らしがもっと楽になるようなものです。

アフリカに興味がない人にこそ、彼らの格好良さを伝えたいんです。興味のない人が、ニュースだけを見てなんとなくネガティブな印象を抱いてしまうのがすごく悔しくて。アフリカには良いところもたくさんあり、格好良い人もたくさんいる。私の写真をきっかけに、その認識が広がるといいなと思います。

あとは、撮影した写真を彼ら本人に見せに行くことでしょうか。アフリカに限らず、世界的に少数部族が減ってきていて。それは近代文明が彼らの生活に入ってきているという理由もありますが、「あなたたちの文化は恥ずかしい」と言って、彼らから誇りを奪おうとする国もある。そんなふうに文化が失われていくのが、とても悲しく思えるんです。だから時間がかかっても、撮影した彼らの元に写真を届けて「あなたたちの写真を見て多くの人が格好良いと言っていたよ」と伝えて、自分たちの誇りを再認識してくれたらいいなと思います。

これまでにも、スリ族には『SURI COLLECTION』という写真集を発表した時に作品を見せに行ったことがあります。彼らはカメラのことは知っているけど、写真は知らないんですよね。だから自分や友達が紙の中にいて、しかもそれが少し昔の自分だということにすごく驚いていました。でも、すごく喜んでもいましたね。こうして伝えることで、彼らが自分たちの文化を10年後、100年後まで守る助けになるんじゃないかと思います。撮ったら終わりではなくて、作品を自分の手で渡しに行くことはこれからもやっていきたいです。

「世界一ファッショナブルな民族」と呼ばれるスリ族(Photo:nagi yoshida)


逃げてもいい。そこから道が開けることもある


―かつては引きこもりで、やりたいことがなかなか見いだせなかったヨシダさんが、こうして世界で活躍していることに勇気をもらう人も多いと思います。20代の若者にメッセージをお願いできますか。

ヨシダ:私はなぜか高校生や大学生からお悩み相談のメールをもらうことが多いのですが、あまりにもみんな真面目で、人生に絶望していることに驚きます。もっと気楽に生きればいいのにって思います。

「こうじゃなきゃダメ」って思い込んでいる人が多いんじゃないでしょうか。自分で決めたり、親から押し付けられた夢に縛られて動けなくなっている人がいるけど、夢なんてその時々で変わっていくもの。大きな夢を見て行動できなくなるくらいなら、小さな夢からかなえていったほうが、いずれ大きな夢に届く可能性が高いです。

私もつい最近まで親に「どこでもいいから一度どこかの企業に勤めてみない?」って言われていたんですよ。親としては、安定した社会人になってほしかったみたいで。でも、絶対にできない(笑)。自分にできることとできないことを冷静に判断して、できないことは人に頼む。逃げていいし、嫌なことはやめたらいいと思います。そこから道が開けることもあると思いますよ。

ヨシダさんが落ち込んだ時の対処法「人生は死ぬまでの暇つぶし」


最後にヨシダさんは、自身が落ち込んだ時の対処法として「“人生は死ぬまでの暇つぶし”と考えるようにしてる」と話してくれました。嫌なことでも暇つぶしだと考えると、「どうせ死ぬまでのことだから、今くらいこの気持ちに付き合ってあげてもいいかな」と思えるのだそう。タフなヨシダさんの人生観が垣間見える考え方です。

成功ではなく失敗した時のことを考えるあまり、身動きがとれなくなってしまうこともあるでしょう。それでも、何かアクションを起こしてみないことには現状を変えることはできません。そして行動に移してみることで、立ち止まっている時には分からなかったことに気づける場合もあります。時には考えすぎずに、まずは小さな夢からかなえる努力をしてみませんか。小さな夢を積み重ねていけば、ヨシダさんのように輝けるかもしれません。もし失敗してしまった時には、“人生は死ぬまでの暇つぶし”の言葉を思い出してみてください。ヨシダさんのように気楽に振る舞い、アフリカの人たちから教わったようにどんな状況でも楽しむことができれば、人生はもっと豊かになるのではないでしょうか。


(取材・文:小沼 理/編集:東京通信社)

識者プロフィール

ヨシダ ナギ


1986 年生まれ フォトグラファー。 独学で写真を学び、2009年より単身アフリカへ。以来、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。唯一無二の色彩と直感的な生き方が評価され、2017年には日経ビジネス誌で「次代を創る100人」に選出される。また同年には、講談社出版文化賞 写真賞を受賞。近著には、写真集『SURI COLLECTION』(いろは出版)、アフリカ渡航中に遭遇した数々のエピソードをまとめた紀行本『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)がある。
2018年4月頃、ヨシダナギBEST作品集『HEROES』を発売予定。
http://nagi-yoshida.com

※この記事は2017/11/29にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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