日本でわずか4人だけ! 渋滞解消に奮闘する、NEXCO東日本「渋滞予報士」のオシゴト

天気を予想する天気予報士と同様に、渋滞を予想する「渋滞予報士」という職業があることをご存知ですか? 「渋滞予報士」とは、NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社)において渋滞予測に従事する担当者の愛称です。

日本でわずか4人だけ! 渋滞解消に奮闘する、NEXCO東日本「渋滞予報士」のオシゴト

天気を予想する天気予報士と同様に、渋滞を予想する「渋滞予報士」という職業があることをご存知ですか? 「渋滞予報士」とは、NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社)において渋滞予測に従事する担当者の愛称です。

現在は関東、北海道、東北、新潟に各1名ずつ、わずか4名のみ在籍している渋滞予報士。珍しいその仕事内容、仕事のやりがいや苦労とは? 知られざる渋滞の世界の裏側を、関東を担当する5代目渋滞予報士・外山敬祐さんにたっぷりとインタビュー。高速道路において渋滞が起きる意外なメカニズムや予測方法にもご注目ください!

渋滞予測をどんどん使ってもらうべくPR! 渋滞予報士に課せられた使命とは?



--渋滞予報士とはあまり聞き慣れない職業ですが、そのお仕事内容について教えていただけますか?

渋滞予報士の仕事は大きく分けて3つあります。まずは年間を通じて、いつ、どこで、どれくらいの渋滞が発生するかを予測すること。さらに車線を増やしたり、標識を立てるなど、渋滞を解消するための施策の立案・効果検証も行います。そして、もう一つ大事な役目は、渋滞予測や対策をPRすることです。

渋滞予測は、皆さまに使っていただいた上で渋滞緩和につなげなければ意味がありません。そのため、もっと認知度を高めて、渋滞予測をさらに広く活用していただくための広告塔の役割も担っているんです。ですから、積極的にメディアに出て、渋滞予測についてアピールすることも多いですね。

--外山さんは5代目の渋滞予報士だそうですね。そもそも、渋滞予報士の取り組みを始めた経緯とは?

実は、旧道路公団時代から渋滞予測自体は行っていて、GWやお盆に渋滞予測のニュースが流れるようになりました。だんだんと認知は高まっていったのですが、実際に活用していただくところまでは至っていなかったので、渋滞予測・対策のPRの一環として2007年7月に渋滞予報士の取り組みが始まったのです。

「渋滞予報士」というネーミングだと興味を引きやすいじゃないですか。渋滞予報士がメディアなどに露出することによって渋滞予測に興味を持ってもらい、どんどん活用していただきたいという狙いがあります。

とくに女性に多いかもしれませんが、地図を読むのが苦手な方にとって渋滞予測は難しいのではないでしょうか。天気予報は難しい理論で成り立っていますが、皆さん日常的に活用していますよね。それなら渋滞予測も、難しい理論の部分はわれわれに任せていただき、うまく予測をドライブなどに活用してもらえればと思っています。

--2016年7月に渋滞予報士に就任された外山さん。その前は、どのような仕事を担当されていたのですか?


入社後はずっと現場勤務でした。現場の仕事は、道路の維持管理と建設の2つに大きく分かれるのですが、私は北海道や茨城の事務所で管理と建設、それぞれの経験を積みました。管理の現場では、傷んだ道路の舗装や橋梁の塗り替え工事など、建設の現場では圏央道の新設工事に携わり、各種工事の工程や品質、安全管理に加え、工事を進めるうえでの関係機関との協議など、工事全体のマネジメントを行っていました。


--当時から外山さんは渋滞予報士を希望していたそうですが、その動機はなんでしょう?

転勤族の家庭で育った私は幼少期をいろいろな土地で過ごしたのですが、地元の静岡に帰る際によく渋滞に遭遇していて。そのころから「どうして渋滞って起こるんだろう?」と漠然と疑問を持っていたんです。

大学で専攻していた都市計画の授業などで勉強するうちに、最近の渋滞はサグ(下り坂から上り坂にさしかかる凹部)での無意識の速度低下による渋滞、いわゆる自然渋滞が大半だということを知って、「それならば、情報の伝え方次第で渋滞を解消できるチャンスがある。その担い手になれたら、きっとやりがいがあるはずだ」と思いました。

渋滞予測のPRを行う渋滞予報士の存在は以前から知っており、まさに自分のやりたいことにピッタリだったので、渋滞予報士を志望してNEXCO東日本に入社したんです。

複雑だからこそ安易に判断してはいけない。客観的な視点での分析がカギ


--渋滞予報士になるには、どのようなスキルが必要なのですか?

歴代の渋滞予報士の先輩たちは「交通工学」という分野を専攻していた方が多いですね。広くデータを使って論理的に渋滞のメカニズムなどを解明する学問です。私は先述した通り都市計画を専攻していて、人口統計や商業統計などの数字を使って交通の発展と土地開発の関係などを調べる勉強をしてきました。そういった基礎的なスキルは必要だと思います。

あとは、渋滞がなぜ起きるのかというイメージが頭に描けていることと、渋滞の原因を解明するために広い視野を持つことも求められますね。

--渋滞が起きるメカニズムを簡単に説明していただけますか?

全体の45%を占めるサグによる自然渋滞は、ブレーキの伝播が原因で起こります。

上り坂やサグで自然渋滞が発生するのは、ブレーキの伝播によるもの。



勾配がゆるやかな上り坂やサグでは、ドライバーが上り坂に気づかず無意識のうちに速度が低下してしまい、車間距離が短くなった後ろの車がブレーキを踏みます。そうすると、さらにその後ろの車もブレーキを踏む。このように、ブレーキが波のように伝播することが渋滞の発生する仕組みです。

--なるほど。先ほどおっしゃっていた「渋滞の原因を解明するための広い視野が必要」というのは、なぜでしょうか?

渋滞を予測するときは、単純に過去の渋滞データを見るだけでは不十分です。天気やそのときの流行など、あらゆる要素が関係してきます。たとえば今年のゴールデンウィーク(以下、GW)は、ネモフィラが咲き乱れる茨城県のひたち海浜公園に通じる常磐道が大渋滞を引き起こしました。ご存知の方も多いと思いますが、このネモフィラが国内外のメディアに多数とりあげられたことに加え、Instagramの流行も重なり、いわゆる「インスタ映え」する観光地として人気を集め、ひたち海浜公園の来場者数が過去最高を記録したんです。

また、東京湾アクアラインをはじめとする千葉方面の渋滞では、潮の満ち引きが渋滞と大きく関与しています。これは潮干狩りの影響です。潮のカレンダーと照らし合わせたり、海岸沿いの交通量を調べたりして、証拠集めをしていくなかでこの事実が判明しました。これらのことから、一つの視野では渋滞の真の原因は解明できません。だから、必然的に広い視野が必要になるんです。


--渋滞予測は一筋縄ではいかないわけですね。苦労も多そうですが……。

今年のGWの渋滞予測は、かなり頭を悩ませましたね。今年2月に圏央道の境古河IC~つくば中央IC区間が開通して初めて迎えるGWで、過去のデータがないため予測がより困難を極めました。新しい道路の場合は、過去の高速道路が開通したときのデータを参考にはするものの、やはり条件が異なるので丸々は参考とはなりません。ですので、100%の確証を持った予測はできませんが、ある程度の確証が持てるところまで突き詰めます。

--渋滞予報士としての一番のやりがいはなんですか?

あらゆる分析を行って渋滞緩和の取り組みをするなかで、明らかに渋滞が減ったという結果が数字に表れたときですね。われわれの仕事は主観を取り払って、いかに客観性のあるデータを用いて効果を示すかが肝なんです。比較データを並べ、われわれの取り組みによって「渋滞が減ったこと」を証明できたときは、一番やりがいを感じます。


NEXCO東日本・岩槻道路管制センターにある巨大スクリーン。管轄する道路の渋滞状況をリアルタイムで確認できる。取材に訪れたときはほぼ渋滞がなく、外山さんいわく「とても平和な時間帯」だったそう。

「サグ」を日常会話に!? 渋滞予報士・外山さんが抱く、渋滞解消への野望


--渋滞予報に携わるなかで、印象に残ったエピソードを聞かせてください。

渋滞予測・対策のPRをするなかで、「興味深いですね」「渋滞の仕組みが理解できました」など、いい反応をたくさんいただけたことです。こちらが上手にお伝えすれば、難しいイメージが強い渋滞に対して興味を持っていただけるし、そこにこそ渋滞解消のチャンスがあるということを、1年間従事して実感しました。

--私たちは日常的に渋滞予測をどのように活用すればいいでしょうか?

NEXCO東日本で提供している「ドラぷらアプリ」を、ぜひご活用ください。iPhoneでもAndroidでも利用可能です。ルートごとの渋滞予測はもちろん、最適な経路や料金検索もできますので、電車の乗り換え案内を使う感覚で、気軽にルートを検索してみてください。2016年の4月から首都圏では新たな高速道路料金となり、ETC車の場合、出発地から目的地まで、どの経路でご利用くださっても、起終点間の最短距離の料金になり(※詳しい説明はこちら)ましたので、このアプリを使いこなしていただくと非常に便利だと思います。

また、過去の渋滞や事故情報から導き出したヒヤリ箇所(注意して運転していただきたい箇所)の音声案内とメッセージでのアナウンスも行っていますので、事故防止にも役立ちますよ。

--渋滞予報士として外山さんが達成したいこととは?

「サグ」という言葉の認知度を上げたいですね。当社で行ったアンケートによると、上り坂が渋滞の原因になることを知っている人は約7割。にもかかわらず、自然渋滞を引き起こす「サグ」という言葉を知っている人はわずか2割にすぎません。

だから日常会話で「サグ」が使われるようにしたいんです。「今日のルートで通るあそこのサグ、要注意だよね」というように(笑)。サグが浸透すれば、サグが渋滞の原因になるという事実も自然と浸透するはずなので。渋滞対策にももちろん力を入れつつ、認知向上による相乗効果で渋滞の解消を狙いたいと考えています。


すべての経験は必ず仕事に生きる。好きを追い求めながら、今やるべきことを見つめよう


入社したときから、ずっと渋滞予報士になることを願っていたという外山さん。しかし、入社後に配属されたのは道路工事の現場職でした。そのとき外山さんは「正しい渋滞予測をするには、現場職の知識があってこそ。この経験が必ず役に立つときがくる」と先を見据えながら、現場職にあたっていたそうです。

一方プライベートでは、道路愛が高じて北海道と関東の道の駅をすべて車で回ったとのこと。現場勤務時代、好きでやっていたこの経験から、さまざまな道路事情を把握することができ、それが現在の渋滞予報士の仕事に生きていると話してくれました。

外山さんはご自身の経験を踏まえ、やりたい仕事をかなえるために「好きなことをとことんやる」、そして「一見関係ないように見えることでも、目的を持って関連付けしていく」の2つを大事にしてほしいと、アドバイスを送ってくれました。

20代の今、まだ「自分がやりたいことをやっている」という感触がないまま仕事に従事している方は多いかもしれません。しかし、今積み重ねている時間や経験は、きっと自分が望む道を築くための基盤となっていくはずです。若い今だからこそ、長い目で人生設計をするのは大事なこと。好きなことを追い求めながら、同時に今やるべきことを冷静に見つめる。その姿勢こそが、願った通りの未来を引き寄せる近道になるのではないでしょうか。


<取材・文:小林香織>

識者プロフィール
外山敬祐(とやま・けいすけ)
NEXCO東日本 関東支社 交通技術課 渋滞予報士
大学で都市工学を研究後、現場経験を積み、NEXCO東日本関東支社の交通技術課に配属。
2016年7月、希望していた渋滞予報士に就任。5代目の渋滞予報士。
公式ホームページ:http://www.e-nexco.co.jp/

※この記事は2017/07/28にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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