「TINTO COFFEE」を立ち上げた、中村洋基のアイデアと仕事術

2016年3月、表参道から1本入った路地に、ユニークなコーヒーショップが誕生しました。入店して驚くのが、「間仕切り」がほとんどないところ。

はたらく ライフハック
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2016年3月、表参道から1本入った路地に、ユニークなコーヒーショップが誕生しました。入店して驚くのが、「間仕切り」がほとんどないところ。

壁のイラストは油性マッキーで描かれたものだとか。


識者プロフィール


PARTY クリエイティブディレクター / TINTO COFFEE オーナー 中村洋基 氏

1979年栃木出身。電通に入社後、バナー広告やデジタルクリエイティブを手がけるディレクターとして活躍後、2011年に「PARTY」設立、広告賞の受賞歴、審査員歴多數。

TOKYO FM「澤本・権八のすぐに終わりますから」毎週ゲスト・パーソナリティー。

2016年3月、コーヒーショップ「TINTO COFFEE」をスタート。

【PARTYでの仕事】



・UT PICKS

好きな人を選ぶと、毎月Tシャツが送られてくる、キュレーションサービス。

・Deeplooks

「パッと見」の美しさを、ディープラーニングで解析して、5段階で表すエンジン。

・しずかったー

コトバをキレイに浄化するアプリ。150万ダウンロードされた(配信終了)。


「いつか」は永遠にやってこない


―なぜ「TINTO COFFEE」をスタートさせたんですか?

中村:2人のバリスタとの出会いがきっかけです。コーヒー好きで、すごく才能があって。「いつかお店やってみたいね」と話していました。ぼくは「じゃ、やろうよ」と、具体的にしていっただけです。

―すごくシンプルですね。

中村:でも、それがみんなできないのです。「コーヒー屋やってみたい」「じゃ、やろうよ」「……でも、どうやって?きっといろいろ大変だよね。失敗するかもしれないし。いつかね」と。その「いつか」は永遠にやってこないなと思いました。 コンセプトも、正しいやり方も、進めていく中で生まれてきました。たとえば、ぼくは当初、まったくコーヒーが好きではありませんでした。

―えっ?コーヒー好きじゃなかったんですか?

中村:正確に言うと、みんなと同じ、コーヒーに興味がない「ライトコーヒー好き」ですね。スタバで買って「ああラテ美味いな」という。たとえば、ライトコーヒー好きは、「アメリカン」と「アメリカーノ」のちがいがわかりません。「カフェラテ」と「カフェオレ」と「カプチーノ」のちがいもわかりません。さらに言うとぼくは、ドリップとエスプレッソの違いすらもわからなかった(笑) これはさすがにわかる人、多いんじゃないでしょうか。 ※みなさんはわかりますか? 答えはこのページの最後で!


コンセプトをみつけるきっかけは「ムリそうなこと」


中村:日本人のほとんどは、この「ライトコーヒー好き」です。欧米の人は、もっとコーヒーに対するリテラシーが高いですよ。いっぽう、2人のバリスタは、「ヘビーコーヒー好き」です。彼女たちから、豆のちがい、産地のちがい、焙煎のちがい、エスプレッソは9気圧で25秒付近で抽出するのがベスト、アラビカ種とは、サードウェーブとは……などなど、うんちくを聞きながら、業務用エスプレッソマシンを使って、目の前で出されたカプチーノが、目を見張るほど画期的に、おいしかったんです。

おいしく感じた理由は、ひとつは知識を得ながら飲んだから。もうひとつは、目の前で抽出する音、匂い、演出があいまって、びっくりするほどおいしいものに感じたのです。基本的にコーヒーは苦いもの。嗜好品です。お酒やタバコと同じで、「セッティング」で変わるんだなと思いました。 そして「あれ、なんでこういう体験ができるお店がないんだろう?」ということに思い至りました。

―理由はなんだったのでしょうか?

中村:いちばん大きいのは、日本の食品衛生法です。ドリップはお客さまの目の前で淹れていいんですが、エスプレッソマシンは厨房機器なので、間仕切りの向こうか、お客さまと対面しなければならないんですね。ここに断絶が生まれていました。そして、同時にこれは「チャンスだな」と思いました。広告のアイデアでもそうですが、「一見、ちょっとムリそうなところ」に人と差別化できる、花が隠れていると思います。

ほんとうは、お客さまの目の前で、迫力ある状態で淹れたい。この数倍おいしく感じる状況を再現したい。設計士と「保健所にギリギリ通る」レイアウトを 何度も何度も練っていきました。候補は2つあって、ひとつはU字カウンターの「吉野家劇場型」、もうひとつは、テーブルとお客さんのとなりになる「アップルストア型」。後者をベースに、自然とお店のコンセプトができました。「お客さまとバリスタの間にさかい目がない」コーヒー店です。

これが、お客さんからの目線。たしかにさかい目がなく、店長兼バリスタの理恵子さんがコーヒーを淹れているさまが全部見えます。


―たしかに、「間仕切り」がないため、バリスタがコーヒーを淹れる様子を間近で見れます。というか、ふつうのお店にくらべて、バリスタさんの仕事が見えすぎですね。これバリスタさんは、見られすぎて緊張しないのでしょうか? バリスタのあづみさん!

あづみ:緊張しましたよ、もちろん!でも、さすがに慣れましたね。はじめの月で2,500杯くらい出して。TINTOは、お客さまとも話がしやすいです。

中村:予想外だったのですが、一般的なお店のセオリーは「新規参入客の集客を増やし、客単価を上げること」です。一期一会と思え、と。ところがTINTO COFFEEは、お客さまの常連リピート率が異常に高いのです。毎日ニコニコとバリスタに会いに来る感じなのです。これも、やってみないとわからなかった「嬉しい誤算」です。

バリスタは2人とも、コーヒーを含め、たくさんの飲食を経験しているので、すごいなと思いました。 お店の設計が、物理的にも、だけじゃなくて、精神的にも「さかい目」を少なくできていたら、うれしいですね。


中村さん、アイデアと企画の源泉は?


―さきほど、コンセプトの話が出ましたが、「さかい目がない」という話にしろ、やはり中村さんは「企画力」「アイデア」が光ると思うのですが、そのアイデアの源泉はなんだと思いますか?

中村:うーん……。別に、ぼくはアイデアが優れているわけでは、まったくないですよ。

―いやいや。

中村:いやいや。ほんとうです。ぼくは、おもしろいアイデアを高確率で生み出す確率は「教養の絶対量」と「若さ」×「課題についてマジメに調査し、考える時間」だと思っています。ぼくには、どれも足りません。若い人のほうが基本的には面白いんです。 天才でもありません。若いころ、バナー広告のクリエイティブをやっているときは、正直、世界で1番か2番くらいかなとうぬぼれましたが、リッチ表現のバナー広告が衰退してから、自分を、大したことのない人だと思っています。

―では、中村さんは、他の人と何がちがうと思いますか?

中村:とにかく行動することを心がけています。はじめにいったとおり、ほとんどの人が、理由をつけて行動をしないのです。TINTO COFFEEを始める前に「さすがに飲食の常識を知らないのはまずい」と思い、某専門学校の「店舗オーナーコース」みたいなものに通いました。店長・バリスタの理恵子さんも、再度勉強して、JBA(日本バリスタ協会)のバリスタライセンスを取得しました。

そこで会った人で、実際に店舗をつくった人、バリスタになった人って、ほとんどいないです。受講費50~100万円くらいかかるのに。 彼らがぐうたらなのでは、ありません。 「成功しそうなコーヒー店をつくってください」とおおづかみに言われたら、誰もできないと思います。それを、要素分解して、適切な目標設定にする、ということです。

たとえば「焙煎業者にお願いして、オリジナルブレンドをつくってもらう」「条件に合う物件を探す」「メニューをつくる」と、ひとつひとつに要素分解して、締め切りをつくる。 すると、できる。 目標設定が適切でないと、人はがんばれないのです。

あとは、信じたことを、淡々とやる。まだ、自分たちは駆け出しのペーペーです。本当にすごいコーヒー屋になるのは、ぼくのオーナー経験や、バリスタがコーヒーを淹れる経験が、2,000時間、10,000時間を超えたあたりです。スペシャリストになるとは、そういうことです。やる前に不安がるのはもったいない。不安に思ったり心配する前に、まずはやってみて、やりながら考える。それだけの違いです。

―なるほど。でも確かに、やる前に「これでほんとうに正しいの?」と、不安にもなりますよね。

中村:ぼくは「意志の力を信じずに、いかに自分を変えていくか」ということを、自分のテーマにしています。自分の才能の限界はわかった。同じ生活・同じ思考をつづけていてはアップデートできない。会社やお店も同じです。普通の企業や商店は、5年後の生存率はたった15%です。だから、他の人とちがうことにBETして、粛々、淡々とやりつづけて2,000時間以上の経験を積むんです。

中村:……なんかえらそうなこと言ってますね。コーヒーどうぞ。マキアートという、フォームミルク少なめのコーヒーです。お砂糖いれると、ぐっとおいしくなるんですよ!

―いただきます。TINTO COFFEEは、クリエイティブ・ラボ「PARTY」のプロジェクトでもあるんですか?

中村:いえ、個人的なものです。費用もすべて自分の私費です。実は、お店をはじめるのって、それほどお金はかからないんですよ。日本政策金融公庫に借りてもいいし、居抜きベースだったら、工夫次第で100万円以下ではじめられるかもしれません。PARTYとのシナジーはいつか…!と考えています。

―最後に。キャリアコンパス読者から「自分がやりたいことが、わからない」「ボンヤリしている」という声をよく聞きます。どんなアドバイスを送りますか?

中村:たしかに。わからないですよね。ぼくだって天職はわからない。自己実現も果たせていません。でもそれでいいんですよ。ぼくたちは、宇宙からみたら虫ケラみたいなものです。塵芥です。生まれてきた意味なんてない。わからないから、なんでもいいと思うんですよ。基本。なんでもいいけど、「スペシャリストになる」ことが大切かなと思います。

なぜなら、人が仕事で頼るのは、その人ならではのスペシャリティです。スペシャリティとは「その人に頼むと、卓越した結果を出してくれることに対して責任を持っている」状態です。今の若い子たちを見ていると、ちょっとでも「これじゃない」と思うと、割とあっさり会社を辞めてしまう人が多い気がします。辞めて、そのことを正当化してブログに書いたりする。まあぼくも書きましたけど(笑)。

でも、ちょ待てよと。いま辞めても中途半端かもしれないぞと。「キャリア」と呼べるのは、2,000時間、ドラクエで言うと20レベルくらいかなと思うのですが、レベル7くらいでやめたら、そこまでのあなたの人生がもったいない、と思うのです。 いま、KY、空気読める人が増えてます。自撮りがうまくなったり、自分をプレゼンテーションするのがうまい若者が増えてます。でも、数日一緒に働くと、あっという間に化けの皮がはがれます。そして、逃げたことのある人は、2回でも3回でも逃げます。

……あ。あまり転職するな、というと、インテリジェンスさん的によくないですね(笑)転職はしてもいいです。前のめりな転職をしましょう!はたらくを楽しもう!!!

―そこまでインテリジェンスを宣伝しなくてもいいです。ありがとうございました。

【文中の問題の答え】


「アメリカン」は、 豆を浅く煎ったドリップコーヒーのこと。

「アメリカーノ」は、エスプレッソをお湯で薄めたドリンクのこと。

「カフェオレ」は、ドリップコーヒーにミルクを1:1ほどで入れたもの。薄め。

「カフェラテ」は、エスプレッソにミルクを入れたもの。濃いめ。

「カプチーノ」は、カフェラテとほとんど同じですが、ミルクを高温で泡立てないのがラテ、中温でとろりと泡立てたのがカプチーノです。 味のちがいは、ぜひTINTO COFFEEで確かめてみてください!

※この記事は2016/11/04にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
《編集部》

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