慶應卒、博報堂から…プロレスラーへ!? 自問自答の末、リングで見せる熱き生き様!

「よろしくお願いします!」。元気なあいさつとともに、取材場所に一人の男性がやってきました。冬服の上からでもわかるほどがっちりとした体つきと、赤く染めた前髪が人目をひく彼の名前は三富政行(みとみ・まさゆき)さん。28歳の現役プロレスラーです。

慶應卒、博報堂から…プロレスラーへ!? 自問自答の末、リングで見せる熱き生き様!

「よろしくお願いします!」。元気なあいさつとともに、取材場所に一人の男性がやってきました。冬服の上からでもわかるほどがっちりとした体つきと、赤く染めた前髪が人目をひく彼の名前は三富政行(みとみ・まさゆき)さん。28歳の現役プロレスラーです。

小学生の頃からプロレスの魅力にとりつかれ、大学時代は学生プロレスの選手として活躍。現在はプロレスラーとして5年目を迎える三富さんですが、実は慶應義塾大学を卒業し、大手広告代理店・博報堂で働いていたという経歴の持ち主。そんなキャリアから転身し、プロレスラーの道を選んだ背景には、自分はどう生きたいか?という自問自答の日々と、逆境を乗り越える強い意志がありました。

キャリアコンパス世代の三富さんに、好きなことを仕事にする難しさ、それを上回る喜び、夢を追うことや気になる収入の話までを語っていただきました。

プロレスは勝ち負けより「やられても立ち上がる」ことが大事


三富さんがプロレスに出会ったのは小学6年生の頃。夜更かししてテレビを見ていた時、たまたま放送していたプロレス番組を見て、雷に打たれたような衝撃を受けたといいます。

「小さい頃から空手はやっていたのですが、はじめてプロレスを見た時『世の中にはこんなすごいものがあるのか!』と衝撃を受けました。プロレスって、どんなにやられても立ち上がるんですよ。空手はもちろん、スポーツは基本的に勝つためにやるものだけど、プロレスは勝ち負け以上に諦めない気持ちが大事。どんなにダメな瞬間でも、立ち上がる。最後は負けるかもしれないけど、自分の生き様をしっかり見せる、そういうスポーツなんです。それを体現している選手たちの姿を見て、衝撃と感銘を受けましたね」。

それから中学・高校とプロレスに熱狂した三富さん。はじめて生で試合を観戦したのは高校1年生の時でした。

「画面の中では何度も何度も見ていたけど、生で見た時の興奮は忘れられないですね。とにかく、音の衝撃がすさまじいんです。選手の体がリングに打ち付けられると『バーン!!』という音が会場中に響く。リングにそれほど近くない2階席から見ていたのですが、それでも鳥肌が立つほどの衝撃でした。だから自分が試合をする時も、『はじめて見る人の衝撃はすごいんだ』と胸に留めて臨んでいます」。


ボディ・プレスの瞬間。自身がリング上で響かせる音が、観客にどれほどのインパクトを与えるのか常に意識は欠かさないと言う。



リングには生き様が出る。それなら、オンリーワンのキャリアを


テレビや会場で、手に汗握りながら観戦した試合の記憶を、まるで昨日のことのように熱く話す三富さん。その口調からも、プロレスにかける思いの強さが伝わってきます。高校を卒業すると、一浪の末に慶應義塾大学に入学。実はこの進路も、プロレスのためのものだったと言います。

「大学生になったら学生プロレスをやりたいと思っていたんです。でも、現役の時に受かったのは都内から遠く離れた大学だけ。学生プロレス団体はほとんどがインカレサークルですが、活動場所は主に都内。その大学では都内までの移動に時間を取られるので、満足に活動ができないかもしれないと思い、親に頼みこんで浪人させてもらいました。

それに慶應大生のプロレスラーって言ったら箔がつくじゃないですか(笑)。実際、プロレス活動中も僕以外に慶應大生はいませんでしたし。だから将来のこととかは一切考えず、全てをプロレス目線で考えていました」。


学生時代は「潮吹豪(しおふき・ごう)」のリングネームで数々の試合に出場。とにかくプロレス漬けの日々だったそうですが、大学卒業後は悩んだ末、まず社会人として経験を積む道を選びます。

「すぐプロレスラーになるか、一度社会人になるかは本当に迷ったんですよ。プロレスってキャリアがモノを言うスポーツだから、若いうちにデビューしたほうがいい。僕は今年28歳ですけど、たとえば18歳でデビューしていたら今年10周年なんですよね。僕は24歳でデビューしたから、まだ5年目。この差はとても大きいんです」。

けれどキャリアで全てが決まるわけではない、と三富さんは続けます。

「プロレスがすてきなのは、キャリアや身体能力だけじゃなくて、人間力が問われるところなんですよね。プロレスが下手でも、苦労を積んできた選手がたくさんの人を試合で感動させることがある。生き様がリングに出るんです。そう考えた時、新卒で就活ができるのって今しかないし、自分にしかできない道を進んでみようと思いました。きっと、のちに僕のプロレスで活きてくるはずだと。

自分で言うのもなんですけど、未来永劫、僕と同じキャリアのレスラーは出てこないと思います。そういう意味ではオンリーワンになれる道を選べたと思っていますね」。

収入が博報堂時代の10分の1以下に。苦しかった活動初期


プロレスと同じ「世の中に衝撃を与える」仕事がしたいと考え、広告代理店に就職した三富さん。忙しい業務の合間を縫って、始業前にジムでのトレーニング、土日は練習試合に励む毎日。そんな中で、三富さんは「自分の生きる場所」について考えるようになります。


「社会人になって考えていたのは、アイデンティティの所在でした。結局、自分は何者なんだろう?という疑問が常に頭にありました。心はプロレスラーでいたかったから、どんなに忙しくても練習は怠らなかったけど、じゃあ職業を聞かれて胸を張ってプロレスラーだと言えるかというと、そうではないんですよね。かといって、会社員もしっくり来ない。自分が自分じゃないような感覚がすごくあったんです」。

博報堂に勤めていたのは約1年ですが、入社した年の夏ぐらいには辞めようと決めていたそうです。これはネガティブな動機からではなく、「何者でもない」という曖昧な自分から抜け出し「プロレスをやるんだ」と前向きな気持ちへ切り替えたかったから。そのため、三富さんは会社を辞めることに迷いはありませんでした。

「ただ、いざ生活していくとなると……。今は団体と契約しているからある程度の収入が保証されていますが、最初にプロレスラーとして活動をはじめた時は一試合いくらの世界。プロレスだけではなかなか暮らしていけないんです。だからパーソナルトレーナーのライセンスを取得して、プロレスに関するビジネスで生計を立てようとしましたが、それでも活動当初の月収は5万円でした。博報堂にいた時の10分の1以下です。しばらくそんな生活が続いて、貯金もなくなって……。あの時は苦しかったですね」。

5年続けて思った「やり続けられる人が一番強い」ということ


挑戦してみたいことがあるけど、収入が不安定になるのでなかなか踏み出せない、という人は多いはず。それで夢を諦めてしまった人もいるでしょう。三富さんは、苦しい時期をどう乗り越えたのでしょうか。

「お金がなくなると、心の余裕もどんどんなくなっていくんです。お金の余裕は心の余裕だと痛感しました。ただ、そこで負けたらその仕事への情熱はそこまでだった、ということですよね。僕がプロレスを5年間続けてきて思ったことは、やり続けられる人が一番強いということ。そして不思議なことに、やり続けているとちゃんと仕事になっていくんです。僕はプロレスが好きで、諦めずに続けていたから今こうしてプロレスラーとして生きていられるんだと思います。

学生など若い人から相談を受けることがよくありますが、先日、『就活をしようと思っているけど本当は絵を描いて暮らしたい。でも自信がない……』という話を聞きました。だけど、本当に好きならやり続けられますって! 絶対に大丈夫。やり続けたら必ず形になると思います」。


インタビュー中、思わず語気が強くなる三富さん。逆境に耐え、諦めずに立ち向かうことで今の生活を勝ち取ったからこそ、言葉には熱がこもります。今年でプロレスラー生活5年目を迎えた三富さんに、続ける中で思ったこと、続けるための原動力について聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

「生活が不安定なこともありますけど、純粋にプロレスをやり続けるのも大変で。試合に出れば痛い思いをするし、自分より後輩のレスラーが人気になれば悔しさもあります。だけど、プロレスラーでいることがとにかく嬉しいんです。学生プロレスではじめてリングに立った時からずっとそうですけど、プロレスラーでいる時は感覚的に『自分の居場所はここだ』ってわかる。本当に好きこそ物の上手なれ、ですよね」。

戦い続けるプロレスラー・三富政行のこれからの夢

 


最後に、三富さん自身の今後の夢について聞いてみました。

「大学時代や社会人時代の同期など、僕のまわりにはそれぞれのフィールドで一流として活躍している人がたくさんいます。いつか彼らと一緒に仕事がしたいです。まだまだプロレスの魅力が浸透しきっていないと思うので、もっともっとプロレスを大きなコンテンツにしていきたい。これはプロレスラーとしての僕の夢だし、現役をやめても一人の人間としてその夢を追い続けたいですね。

あとは、まだベルトを巻いたことがなくて……。僕は今、武藤敬司率いるプロレス団体WRESTLE-1(レッスルワン)と契約しているのですが、この中で巻きたいベルトがあるんです。『WRESTLE-1 リザルトチャンピオンシップ』というタイトルの王座が手にできるベルト。このベルトは、強さだけじゃなく、プロレスの可能性を広げた人に与えられるもの。僕の生きかたにマッチしているというか、生き様を証明できるベルトだと思うので、今年こそ手に入れたいです!」。


「いつかはプロレスラーに」。

心の奥にそんな夢への思いを秘めたまま、一度は企業への就職を選んだ三富さん。そこで「何者でもない自分」に出会ったからこそ、あらためてプロレスラーの道へ進むことを決意できました。今、プロレスラーとしてより一層、仕事に対する誇りと自信を強く感じていることでしょう。現に三富さんの"生き様"はリングの上で唯一無二の輝きを放ち、多くの観客を魅了しています。

今の自分にどこか違和感があるという方。自分が何者なのかぼんやりと悩んでいる方。もしかしたらそんなときこそ、本当になりたい自分像を見つめ直すチャンスなのかもしれません。

(取材・文:小沼理/編集:東京通信社)

識者プロフィール


三富政行(みとみ・まさゆき)
1989年8月2日生、東京都世田谷区出身。プロレスラー。慶應義塾大学文学部卒業。大学在学中は学生プロレスに打ち込み、潮吹豪のリングネームで活躍。卒業後は大手広告代理店・博報堂に就職。プロレスラーになる夢を捨てきれず、1年で退社。
2013年DDTプロレスリング系列のユニオンプロレスでデビュー。同団体解散後はフリーとなり、自身のプロデュース興行なども積極的に開催。
2015年12月より、武藤敬司率いるWRESTLE-1(レッスルワン)に参戦。現在は専属フリー契約し、試合のほかに興行のプロモーション・マネジメント等にも尽力。
2018年より福山平成大学の非常勤特別講師に就任。グルメサイトなどでも連載を持ち、マルチに活躍。プロレスラーだけでなく、スポーツ選手やタレントのトータルキャリアデザインの探求を目指す。
NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会認定パーソナルトレーナー)、NESTAパワーサプリメントスペシャリスト等の資格も取得している。

※この記事は2018/03/20にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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