仕事の悩みがきっかけで「シブヤ大学」開校――"やりたいこと"を見つける最善の方法とは

渋谷の街をキャンパスに、さまざまな人を講師に迎え、日夜開講されている「シブヤ大学」。いわゆる一般的な大学と違い、年齢問わず誰でも無料で授業を受けられる、NPO法人が運営する市民大学です。

スタディ 雑学
仕事の悩みがきっかけで「シブヤ大学」開校――
  • 仕事の悩みがきっかけで「シブヤ大学」開校――
  • 仕事の悩みがきっかけで「シブヤ大学」開校――
  • 仕事の悩みがきっかけで「シブヤ大学」開校――
  • 仕事の悩みがきっかけで「シブヤ大学」開校――
渋谷の街をキャンパスに、さまざまな人を講師に迎え、日夜開講されている「シブヤ大学」。いわゆる一般的な大学と違い、年齢問わず誰でも無料で授業を受けられる、NPO法人が運営する市民大学です。

その学長を務めるのは、若い社会人が生き方や働き方について考える場所をつくりたいという思いから、27歳の時にこのNPO法人を立ち上げた左京泰明さん。背景には、左京さん自身が自分のキャリアに悩みながらはじめた、ある小さな行動がありました。


キャリアに悩んだ新社会人時代


--まず、シブヤ大学について教えてください。

左京泰明さん(以下、左京):シブヤ大学は2006年に設立され、「渋谷の街がまるごとキャンパス」がコンセプトの市民大学です。特定の校舎がなく、カフェや商業施設、公園など、渋谷の街のさまざまなスペースを教室として借りながら、いろんな人が講師となって自分の活動やキャリアについて話してくれます。参加者の年齢は20~30代が約7割で、最近は活動の分野が広がってきましたが、もともとは若い人たちが自分のキャリアを見つめ直すきっかけの場になればと思って立ち上げました。



--若い人たちのための場をつくろうと思ったのはなぜだったのでしょう?

左京:僕自身、自分のキャリアにすごく悩んだ経験があったんです。学生時代は人や社会のためになる仕事がしたくて、国際機関などの公的な機関に興味があったのですが、なかなか周りにそうした道を選ぶ人がいなくて。かといって留学するほどの経済的な余裕もなかったため、まずはビジネススキルを学べて海外にも行きやすい、商社に入りました。1年目は必死に仕事をこなしていましたが、2年目に入り仕事に慣れてくるにつれて、自分の将来がぼんやり見えてきたんですね。そこで「本当にこのままでいいのかな?」という気持ちが起こりました。

当時はキャリアに迷いつつも、具体的にやりたい仕事があったわけではないので、辞めることもできず……。いつの間にか、夕方になると会社の休憩室で「何のために会社に行っているんだろう?」と考え込むようになりました。これからもこういう人生が続いていくっていうことに、強い疑問を抱いてしまったんです。

転機となった「スタバの小さな勉強会」


--そうした状況から、どうやって抜け出したのでしょう?

左京:このままではよくないと思って、大学時代の友人4、5人を誘って小さな勉強会をはじめたんです。週に一度、朝7時に大手町のスターバックスに集まって、それぞれが自分の仕事について話します。みんな異なる職種に就いているから、話を聞くのも新鮮でした。一巡すると、今度はそれぞれが興味のあることを調べて、持ち回り制で発表するようになっていきました。これがすごく楽しくて、1週間のモチベーションになっていたんです。

誰にも相談できなかった仕事への悩みを口にできたのも大きかったかもしれません。勉強会は口コミによって1年くらいで100人規模にまで成長し、各地に支部ができるなどどんどん広がっていきました。

--その勉強会で、左京さんはどういった内容を調べていたのでしょうか。

左京:そのころ、世界的にはNPOやソーシャルビジネスに脚光が当たっていました。印象に残っているのは、「MOTTAINAI」キャンペーンで2004年にノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんや、「貧困ゼロ」を掲げて2006年に同じくノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさんなどの活動です。彼らの活動は環境問題や貧困層支援といった社会的な目的でありながら、それをビジネスの手法で解決していくものでした。

それまで、僕は社会的な課題は行政、ビジネスは民間企業と完全に分かれていると思っていたのですが、NPOはその二つの利点を兼ね備えていました。その存在を知って、自分がやりたいことはこれだ!と思ったんです。



それから日本のNPOについて調べていき、26歳で商社を辞めたあとはグリーンバードというNPO法人に所属します。これは現・渋谷区長の長谷部健さんが議員時代に立ち上げたNPOで、ナイキやタワーレコードなどの企業とコラボして、軍手やゴミ袋を作っていました。ゴミ拾いの活動をおしゃれに見せることで、ゴミをポイ捨てしないことへの啓発キャンペーンにもなっていたんです。

こうしたアプローチは日本ではまだ珍しく、長谷部さんに実際に話を聞きに行ったら「じゃあ手伝ってみる?」と言ってくれて。そうしてグリーンバードに所属したころに、長谷部さんから話を聞かされたのが「シブヤ大学」だったんです。長谷部さんは「渋谷の街をキャンパスに、若い人の学びの場となるような生涯学習事業をつくりたい」と考えていました。しかし、議会で提案してもなかなか動いてもらえず、ビジネスとしてやっていこうと考えたこともあったけれどそれもうまくいかなかったそうです。

その話を聞いて、思い出すものがありました。僕がスタバでやっていた小さな勉強会です。そして、行政やビジネスでうまくいかないとしても、NPOならできるかもしれないと思いました。自分には勉強会の経験があるし、NPOもやってみたいし……まさに「渡りに船」でしたね(笑)。そうして長谷部さんに「僕がやってみたい」と伝えて、プロジェクトが動き出しました。


NPOへの理解が低く、苦労の連続だった立ち上げ当初


--立ち上げは大変なことがたくさんあったのではないでしょうか。

左京:もう、苦労の連続でした。当時はNPO自体がまだまったく理解されていなかったので、名刺を出すと「本業はなんですか?」と聞かれたことも。NPOはボランティアと同じだと考えられていたんです。そのため、企業に協賛を募りに行っても、話すら聞いてもらえないことも多々ありました。

ただ、スタートしてみると、生き方や働き方に悩み、学びたいと思う若者が僕らの想像以上にたくさん集まってくれたんですよね。20代~30代の若者がたくさん集まる場ということで、徐々にシブヤ大学は企業から注目されるようになり、同時に世間的なNPOの認知度も高まっていったことで、活動が広がっていきました。

--現在、設立から12年目を迎えますが、これまでの活動で一番印象的だったことは何ですか?

左京:山ほどあって選ぶのが難しいですが、この12年の積み重ねはとても感慨深いです。当初はこんなふうになるなんてまったく思っていませんでしたし、テレビ局や雑誌が取材に来ても「大手商社をやめて不安定なNPOにいく、変わった若者」というような伝えられ方でした。当時はNPO関連の本なんてほとんどなかったのに、それが今では本屋の中でも目立つ位置に大きなコーナーができている。欧米などを見ていて、日本もいずれはNPOが浸透するはずだと思ってはいましたが、予想をはるかに上回るスピードでそうなっていきましたね。


夢を描くより、世の中の流れを見定めるのが大事


--今後の夢や展望を教えてください。

左京:そういうものは、考えてもあまり意味がないと思うんです。だって12年前にシブヤ大学がこんなに大きくなっているとは想像もできませんでしたから。思うのは、夢を描くよりも世の中の変化や流れを見定めるのが大事だということ。その流れを意識しながら、今やるべきことをやっていこうと思っています。

--そうした流れの中で、今後のシブヤ大学が担うものは何でしょう。

左京:渋谷はその地域の住民だけではなく、さまざまな人が集まって構成されている街です。こうした特性がシブヤ大学の特徴にもなっているのですが、今後はよりローカルなコミュニティーの課題に対して、地元の方と一緒に取り組んでいくことが増えていくだろうと思います。

たとえば、最近は「盆踊りの運営ができない」という課題があります。これまでに地域を支えてきた町内会の活動に若者が参加せず、組織がどんどん高齢化していく。従来のやり方では衰退する一方ですので、今後どう運営していくかを考える必要があります。

これまでも相談があるたびに地域の人と協力してプロジェクトを行ってきましたが、今後はよりこうした事例が多くなりそうです。2017年からは、渋谷区と共同で「渋谷おとなりサンデー」というプロジェクトをはじめました。これは若者に、渋谷にどんな人がいてどんな取り組みがあるのかを知ってもらい、関心を持ってもらおうというプロジェクトです。こうした活動を通して地域の人の話を聞くことで、そこにある課題がどんどん明らかになっていくでしょう。そしてその課題が、今度はシブヤ大学の授業のテーマになっていく。地域に根ざした学びと実践がリンクして、循環していけばいいなと考えています。


小さな行動を起こせば、必ずやりたいことに近づく


--最後に、ご自身もキャリアに悩まれていた経験を通して、同じような悩みを抱える20代の若者にアドバイスをお願いします。

左京:「何をやりたいか分からないんです」という相談を受けることがよくあります。でも、それって実は当たり前の話で、分かるためには何かをやってみる必要があるんです。たとえば家探しでも、ネットで見ている時ってどれも良さそうに見えてしまうけど、現地に行くと本当に良いのか一発で分かりますよね。だから、まずは何でもいいので試してみることが大切なんです。

いきなり会社を辞めたり、転職したりすることはできなくても、誰かに会いに行くとか、ボランティアで試してみるとか、小さな行動にはいろんな方法があると思います。そうして繰り返すうちに、だんだん本当にやりたいかどうかが分かってきますから。踏み出せずにいるのはもったいないので、まずは行動してみてください。



商社に勤めながら、たった数人ではじめた勉強会。それは、悩んでいるだけでは駄目だと思った左京さんの小さな行動でした。その行動は今や、シブヤ大学という街全体を使って繰り広げられる大きな学びの場へと成長しています。

今の仕事に違和感を抱きながらも、進むべき道が見えなくて迷っている、かつての左京さんのような人がいるかもしれません。そんな人はまず、どんなに小さい行動でもいいので試してみましょう。シブヤ大学のような場所に足を運んだり、本を読んだりするのも一つの行動です。もし「違う」と感じても大丈夫。やりたくないことを見つけるのも、やりたいことに近づく一歩です。失敗を恐れず、ぜひ行動を起こしてみてくださいね。

(取材・文:小沼 理/編集:東京通信社)


識者プロフィール


左京泰明(さきょう・やすあき)特定非営利活動法人シブヤ大学 代表理事
1979年福岡県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。
2006年特定非営利活動法人シブヤ大学を設立。
「シブヤの街が丸ごとキャンパス」をコンセプトに、生涯学習、まちづくり事業を行っている。
また、近年は渋谷区での実践をもとに、他の地域のまちづくりに関する助言や、
NPOへの経営指導などにも注力している。
「シブヤ大学」公式サイト:http://www.shibuya-univ.net/
「渋谷おとなりサンデー」公式サイト:https://shibuya-otonari.jp/

※この記事は2018/01/30にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
《編集部》

関連記事

    page top