【お笑い芸人・石井てる美-後編】超異業種転職学 -私がマッキンゼーを退職してお笑い芸人になった理由-

毎回、さまざまなジャンルの次世代を担うエキスパートを講師に迎え、来るべき未来への基礎体力を養成する、20代のための授業。

はたらく ライフハック
【お笑い芸人・石井てる美-後編】超異業種転職学 -私がマッキンゼーを退職してお笑い芸人になった理由-
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毎回、さまざまなジャンルの次世代を担うエキスパートを講師に迎え、来るべき未来への基礎体力を養成する、20代のための授業。

第4回目の講師はお笑い芸人の石井てる美さんです。東京大学大学院を卒業後コンサルティング業界トップと言われるマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職し、その後お笑い芸人になったという超異色の経歴を持つ彼女は、なぜそのような生き方を選んだのでしょうか?


自分の人生なのに「周囲の視線」が息苦しい


実は学生時代から人前に立つことが好きで、もし別の人生があるとするならば「お笑い芸人」になりたいと思っていました。ずっと憧れはあったのですが、そういう生き方は夢の世界だけに存在していて、それを選ぶという選択肢は、学生時代には考えられなかったです。当時は目の前に敷かれたレールを真っ直ぐ歩んでいくことが大切で、それが当たり前の生き方だと考えていたから、人生の早い段階で選択肢を絞る生き方は考えられなかったんですね。むしろ、高校時代や大学時代にグラビアアイドルをやっていたりミュージシャンを目指す人に対して、冷ややかな視線を送ってましたね(苦笑)。


それはもしかしたら、育ってきた環境が影響しているのかもしれません。進学校や東大に行くと、常に「周囲の視線」というのをお互いが意識していて、つまらない見栄の張り合いが少なからずあるんです。お互いが相手に恥ずかしいと思われないように必死にプライドを見せ合うところ、墓穴を掘らないように保守的に人生を進めるところがしんどい部分はありましたね。でも、マッキンゼー時代の後半に周囲に恥ずかしい人と思われないように必死になってキャリアやプライドを守ろうとする自分を俯瞰で眺めたときに、つまらない価値観に支配されているな、とようやく違和感に気がついたんです。


キャリアを築いても心からわくわくしなかった


今思い返してみると、マッキンゼーに行くと決めたのも、より世間的に良いとされるものを選んだだけだったなと思うこともあります。私は、「お笑い芸人になる!」とマッキンゼーを辞めるまぎわに心に誓うまで、人生のなかで何にもリスクを負う決断をしてこなかったんですよ。もちろん大学院を卒業する当時は「国際的にダイナミックなことができる仕事がしたい」と考えて就職活動を行っていたのですが、今思い返してみると、果たしてそれが心の底からの本心だったかが分からないですね。

結局のところ、「どんなものを捨ててでも、その仕事がしたい」って思えるくらいの情熱がないと、それ相応の成果は出せないと思うんですよ。当時の私は常にレースのトップ集団のなかで走り続けることを目的としていたから、マッキンゼー社員というところまでたどり着けました。でもそこで何を実現したいか、というビジョンが見えていなかったんだと思います。トップの企業に勤めるまでのキャリアは築けたけど、いつまで経っても本当に自分の人生でやりたいことに近づけている実感やわくわくした感情が湧いてこなかったんですよ。


幸せの原体験を見つめ、突き抜けた瞬間


マッキンゼーを退職してからの進路として、商社への転職や学生に戻ってMBA(経営学博士)を取るという選択肢もありました。でも、面接でその場で取り繕った体裁のいいことを言っている自分が目に浮かんで、これ以上、人生をでっち上げるのは違うなと感じました。では、本当にやりたいこととは何か? 自分自身に問いかけて、「やりたい」と思いながらも心のどこかで押さえつけていた、死ぬまでに一度はやってみたかった「お笑い芸人」という道を、それこそ人生に一度ピリオドを打って、まったく新しい別の人生を始めるつもりで挑戦してみようと思ったんです。

もちろん、大きな決断をしたことがない私にとって、積み重ねたキャリアを捨てて、これまでの人生の秩序とはまったく違うお笑いの世界に足を踏み入れるというのは、本当に怖かったし、葛藤がありました。でも、「人生で一番失いたくないものはなんだろう?」と考えたときに思い浮かんだ家族と友達は、私が「マッキンゼーを辞めて、お笑いの世界に行く」と言っても、彼らは否定しないだろうっていう自信はありました。だったら失うものは何も無い。つまらないプライドにこだわるのは終わりにしようとようやく決意できたんですよね。


キャリアを捨てて、お笑いの道へ


その後、親に決断の意思を伝えたら「やりたいと思うことがあるなら挑戦しなさい」と後押ししてくれたんですよ。マッキンゼーからは、私が芸人になったら、私が在籍していたという事実を抹消されるんじゃないかとか、会社としてデメリットになるから口外しないようにとか言われるんじゃないか…と思ってビクビクしていました(笑)。でも、そんなことはまったく起こらず、同僚は面白がってくれたり、応援してくれたんですよね。自分はあまり覚えていないのですが、マッキンゼーの内定者懇親会のとき同僚に、「将来はお笑い芸人になる!!」なんて宣言していたみたいで、そこまで驚かなかったりして拍子抜けしました(笑)。


もちろん「お笑い芸人になりたい!」と言ったら誰でもなれるというような甘い世界ではないし、ましてや食っていける人なんて一握り。でも正直最初は、養成所に入る=お笑い芸人を目指す自分の姿に満足してしまっていたんですね。恥ずかしい話、「お笑い芸人になる」という目的を見つけることが目的になってしまっている部分もありました。いざ、ワタナベエンターテインメントの養成所に入り、初舞台を踏むまでは「経歴も特殊だし、きっとウケるだろう」と、一度挫折を体験したくせに、まだ調子に乗っていたんですよ(笑)。でもいざ舞台に立って、考えたネタを披露しても、まったくウケませんでした。今まで自分のことを「面白い人だ」と思っていたけれど、あくまで素人レベルの話。ただの宴会部長に過ぎなかったんだな…と。


シンプルに面白いかどうかが勝負! 「個」の強さが試される世界


当たり前の話ですが、舞台でお客さんの前に立ってネタをやるときは、その人が「面白い」かどうかだけが評価になるんですよね。今まで、学歴や会社といった肩書きや地位といったものに守られる人生を送っていたけど、舞台に立つとそれは一切関係ない。丸腰の「個」になったとき、人に「面白い」と思ってもらえなかった私は、何の価値もないんだと気付いて……。そのときに私は、東大生卒、マッキンゼー社員といった部分で、アイデンティティを保てていたんだなというのを自覚するんですよね(苦笑)。


養成所を卒業してしばらくは箸にも棒にも引っかかりませんでした。でも「お笑い芸人に向いてない。そろそろ諦めて転職先を探そう」と、思っていた矢先に、突然転機が訪れました。2010年10月に当時テレビ朝日でやっていたゴールデン番組『タイムショック』への出演が決まったんです。当時のマネージャーが「クイズ番組に営業をかけておく」と言ってくれていたのが、6月くらいだったので、もうないな……と諦めていたのですが、突然チャンスが舞い込んできたんです。つくづくこの世界は分からないもんだな、と思いましたね。


挑戦した分だけ、ご褒美が待っている


私はまだまだ夢の途中だし、もっともっと努力していかなくてはならないのですが、一歩踏み出した人間として、今の「生き方」に悩む皆さんにできる話が一つだけあります。それは、『挑戦した分だけ、ご褒美が待っている』ということです。

キャリアを積み重ねていけばいくほど、今置かれている現状を維持したいと感じてしまうものです。未知の世界に飛びだすには、相当な勇気が必要で、ネガティブな側面やデメリットばっかりを考えてしまうんですよね。でも、実際決意して行動に起こすと、予測していなかった良いことが不思議と起こるんですよ。私の場合は、それが会社の元同僚の思わぬ後押しだったりとか、友達や家族のサポートでした。

もちろん最悪を想定することはリスクヘッジをするために必要ですけど、「やってみたい」と考えていることがあるなら、挑戦しないで人生の後半に後悔するよりは、たとえ失敗しても、挑戦してみてほしいですね。そこでしか知り得ない経験や学びは、きっと人生の大きな財産になると思いますよ!


本日の授業のおさらい


1.「周囲の視線」で決めた選択は揺らぎやすい。
2.チャレンジすることは、嬉しい誤算に出会えるチャンス
3.人生を後悔しないために、「周囲の視線」にとらわれずやりたいことには挑戦するべし!



PROFILE



石井てる美/お笑いタレント。1983年東京生まれ。2002年、東京大学文科三類に入学。入学後に日本国外での現地活動を志して理系に転向、工学部社会基盤学科に進学して発展途上国のインフラ整備について学んだ。同大学工学部卒業、同大学院修了後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社を退社後、現在はワタナベエンターテインメントに所属し、お笑い芸人として活躍中。著書に『私がマッキンゼーを辞めた理由-自分の人生を切り拓く決断力-』(角川書店)がある。


※この記事は2013/08/14にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
《編集部》

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